総 合 芸 術 教 育
2023年度 作品展
ホワイトポエム (0・1歳児)
赤ちゃん達はヒトの一生の中で最も触感がフル活動している時期である。
言葉に巧に操られる事も時間に追い詰められる事もなく、生きている。
例えば、私達が見知らぬ国に裸で置き去りにされたらと想像してほしい。(勿論携帯電話なしで)
まずは身を守る触感の服を探し、お腹が空いたら嗅覚や味覚で安全を確かめ手でつまむであろうし、眠くなると家や布団を探すだろう。
言葉の習得はずっと後だ。声を出しゼスチャーで頑張る。
生きるために言葉以外の感覚が研ぎ澄まされた状況。瞬時に善人かそうでないかも判断しなくてはいけない。
赤ちゃん達がお気に入りの毛布があったり、初めての触感の食べ物に注意深いのは自然である。
今年は色をあえて無くし、素材感、触感に集中する造形を多く取り入れた。
筆跡は、物に対峙した時の彼らの思考の跡だ。
「凹凸にペイント」
「穴あき紙にペイント」
出っ張っている物、穴が空いている物のどこを攻めていくのだろう。
紙一枚の段差を逃さず穴の中からスタートしたり凸を避けたり筆から感じ取った物の形が反映されたりしている。
様々なグリップスタイル/最初は紙に描かれた絵よりも出所となる筆先に注目する。
片方の手で触り、ネチョネチョ感を楽しみだす。その後は成長と共にそれぞれに変化していく。
「光のテーブル」
「トイレットペーパークレイジー」
また一つの球にして転がす。
ママにとってはクレイジーワーク。
サンゴちゃん (2歳児)
海の珊瑚は植物ではなく動物である。
カンブリア紀(約5億4200万年前)から地球に生息する刺胞動物門に属し、
一つ一つの「ポリプ」という小さな個体が集合し固い骨格を発達させる雌雄同体。
年に一度、満月の夜に一斉に産卵するという。
珊瑚礁は多くの生き物が生息し成体になるまでの時間を過ごすため「海のゆりかご」とも呼ばれているが、
環境問題の煽りを受け現在徐々に減少している。
自然環境を支えるこのゆりかごを失うと生態系は崩れてしまうのは明らかである。
白化現象により生気を失った白い珊瑚は物言わず、美しく哀しい。
珊瑚への恩恵の気持ちと、2歳児に珊瑚のポリプを形成するさまをスタンピングによって
体感して頂きたく2度に渡って行った授業である。
2歳児には“サンゴちゃん“という名前と連続してスタンピングした感触が
身近な大切な存在として記憶に残ればそれでよいと思っている。
「サンゴちゃんNo.1」
ねじり込んだり思い余って穴があく。
「サンゴちゃんNo.2」
パッと離す抑制をきかせている。
半球に挑戦。
「種子の標本箱」
箱を布で拭き染め、バターナイフでボンドを塗りコツコツ作った。
食品には種子が多く、よく観るととても美しい。
「包み貼り」
2歳児の視覚がよく現れた作品。
物の形態を手で触りながら把握して視覚よりも触覚重視の世界観である。
大人がもし、目を閉じて徳利に触れればこの“穴“へのこだわりがわかることだろう。
千利休に見せたいニュートックリ。
つなげてつなげて (3歳児)
少しずつ仲間、友達の大切さ、協力する喜びを感じはじめた時期。
5メートルの紙にルールは1つ、“友達のテープと必ずつなげる“
目をらんらんと輝かせ黙々とつなげていくのはお話とは異なるコミュニケーションで、
合唱で美しくハーモニーが重なった時の嬉しさと似ている。
我々が用意していたカットされたテープは瞬く間に作家達に消化された為、
テープを自分達で引っ張り出しハサミで自由に切り取っていたがその作業もまた楽しそうにせっせと行っていたのが印象に残る。
“遊び“に全くルールが無いのはある意味つまらないことなのだろう。
「葉っぱの版画」
「引っ張り紐のデカルコマニー」
版画の魅力とは意志で直接描かないことだ。
生活や自然の中には多く存在し、
たまたまできている美しい跡やめくってみると出てきた対の模様に心が奪われる時がある。
葉っぱを拓本する時は必ず何度も撫でる必要があり葉脈を感じる。
絵の具に浸した紐を紙に挟んで引き抜けば植物の拡大図のような造形が現れる。
何かしらの圧力から物を描けない方には、おすすめの美との戯れ。
「ニャンコ巻き巻き」・「椅子巻き巻き」
私たちの暮らしの中には糸や蔓、
紐を使うことはとても多いのにその扱いを伝授しているであろうか。
立体に巻き付けるときに重要なのは初めと終わりの扱いで、空間認知力も必要である。
お家でもぜひ親子で巻き巻きを!
「バターナイフで接着」
塗り重ねるパテイシエさん
石の亀 (4・5歳児)
園には亀のお世話係がいる。
雪の日には玄関に避難してキュルルルと鳴いている。
海岸に位置する本園は時々海辺に出掛けて遊んでくる。
浜から帰って来た時の顔は大人も子どもも何やら心が満たされた感じになっている。
不思議だ。
自然の中で見つけてきた物で何かをこしらえるのは最も重要な人類の行いだと思う。
基本は棒切れと石だ。
獲物を背後から忍び寄り石で打ち叩きしとめたり
(今もサスペンス劇場などで特に女性が男性に背後から忍び寄り油断したところで
手元にあったガラスの大きな灰皿や壺で、、、というシーンがあるが基本は変わらないのだろう)、
武具、装飾品や家屋、お墓、お金と展開してきた。
狩猟とは縁遠くなった日本の子ども達でも、石や棒切れや花、
貝殻を拾うことは原始と繋がっているのでどうぞ叱らないでやってほしい、ゴミではありませんからね。
こんなに可愛い亀見たことないでしょう?
「収穫した野菜」
「動物たち」
この絵は一見渡り蟹の目を強調しているように見えるだろうが、
実際は右のカニをこの向きから描いたものだ。
後脚だけはパドルのようになっていたのを見逃していない。
目の前でゆでるとみんなが知っている食卓のカニと化したのでびっくり!
そうだったのか・・・
体験画
大迫力の絵だ。
5歳の女の子が描いた傑作。
毎年、運動会の時に年長児は龍踊りに燃え会場を盛り立てる。
左端の龍を絵の具でなかなか着色しないので
「この龍は何色にする?」と聞いたところ
「私の龍は白なの」と小さな声。
「あーそうだったんだね、気づかずにごめんなさい。
どうぞ白でございますよ」
にっこり笑って完成させたのがこの絵だ。
舞台背景・大道具を京都芸術大学
舞台芸術学科の学生が制作してくれた
絵具との戯れ
滑り台をスポイドで垂らした絵具が流れ落ちていく。
去年、スポイドで表面張力を楽しんだ
スポイド博士達は今年は重力を体感する。
想像画
森で野鳥のさえずりを録音したものを目を閉じ横になり聴いてから絵を描いてみた。
見えないものを描くのも美術の重要な役割だ。
世の中の大切なことは大概眼には見えないから。
鳥のさえずりの他に川のせせらぎも聴こえ水を表現した子もいる。
からのパレットを持ちバイキング形式で
自分の必要な絵具の色を選んだ
立体
古新聞紙をいかに堅く強く剣のように作るかに挑戦した。
全てを束ね、ペイントする。
この仕事もまた始めと終わりが大切な上、
絶対に手を離してはいけない忍耐、集中、根気が必要。
油断し手を離してしまうとあっという間に緩んでしまうからだ。